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第206回 (平成31年3月号) SR北海道会

「副業で遅刻、欠勤が増えた!会社を辞めるか、副業を辞めるかにしろ!」
「自分の自由だからどちらも辞めません!」

SRネット北海道(会長:安藤 壽建)

M協同組合への相談

時季ごとの大きなイベントや変わった食材のスイーツなどが口コミで広がり、店舗数も伸び、さらにオリジナルグッズ販売等にも業務を拡大しているC社。若い力が多く、荒削りな部分もありますが、社長の熱気と勢いに負けじと会社を盛り上げています。
Aさんは中途採用でC社に入社してきました。入社して1年ほどは特に問題もなく勤務していましたが、最近オーダーを忘れたり、勤務中にトイレで居眠りをしたり、遅刻や急な欠勤が目立ってきました。確かに残業はあるものの、1日1~2時間程度、月にすると平均20時間前後、特に過重労働ともいえませんが、何かあってからでは遅いので、統括マネージャーが面談をすることにしました。すると、現在副業が忙しく、ほとんど睡眠時間を取れていないとのこと。これを知った社長はすぐにAさんに、副業を辞めるよう指示しました。ところが、Aさんは「副業が認められているんだから、辞めるよう指示されるのはおかしい」と取り合いません。「副業を辞めないなら、ウチを辞めろ!」「俺の自由な時間に何をしようと自由ですよね、会社も副業も辞めません」と話し合いになりません。確かにC社の就業規則には副業を可能とする条文がありますが、『本業に支障がない場合』と明記されています。それを指摘しても、その後もAさんは副業を辞めようとせず、相変わらず遅刻などを繰り返します。対応に困った社長はM協同組合へ相談をしました。相談を受けた事務局担当者は専門的な相談内容について連携している地元のSR アップ21を紹介することにしました。

相談事業所 組合企業C社の概要

創業
2002年

社員数
正規60名 非正規85名

業種
飲食業

経営者像

なんでも興味があるものはチャレンジする方針で、自ら打合せ、原材料の確認も行うことが多い。方針や責任者を決めた後はほぼ任せ、別の興味あるもの、ビジネスとなりそうなものへシフトしていく。社長決定はスピーディーだが、暴走気味な部分もあり、中間管理職が板挟みとなる場合も多い。


トラブル発生の背景

副業を巡るトラブルです。

C社は副業可能なため、Aさんは副業を開始。ところが、そのことで遅刻や居眠り、業務ミスなどが重なっています。会社は副業を辞めることを提案しましたが、Aさんは就業時間以外はプライベートであり、会社の指示は受けないはずだと副業を辞めるつもりはありません。

ポイント

C社の就業規則には確かに副業可能な条文がありますが、同時に、副業について『本業に支障がない場合』と断りが入っています。Aさんに副業を辞めてもらうことはできるのでしょうか?

もしAさんが今後も副業を辞めず勤怠不良だった場合、解雇することはできるのでしょうか?

今後のAさんへの対応も含め、注意点などC社の社長へ良きアドバイスをお願いします。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:高田 英明)

まず、就業規則において、副業を禁止できるか問題となります。

 

原則として、労働時間以外の時間を労働者がどう使うかは労働者の自由です。

また、労働者の職業選択の自由の保障の観点、多様な働き方が増えている現状に鑑みると、労働者の副業を就業規則において一律禁止することは困難でしょう。厚生労働省も「副業・兼業の促進に関するガイドラン」を出しています。
一方、労働者も労働契約上、誠実に業務を行う義務を負っていることから、本来の業務に支障が生じる副業や、副業が競業に該当する等使用者の正当な利益を害する場合は、使用者の正当な利益を確保する限度で副業を禁止する就業規則も認められます。裁判例でも、労務の提供が不能又は不完全になるような事態が生じたり、企業秘密が漏洩したりするなど経営秩序を乱す事態が生じる場合には、例外的に就業規則をもって規制することができるとされています(瀬里奈事件・東京地判昭49.11.7判時₇765号107頁)。
C社の就業規則は、『本業に支障がない場合』に副業を認めるものであるから、使用者の正当な利益を確保する限度で副業を規制するものとして、合理性を有すると考えられます。そして、Aさんは、副業を開始したことによって、睡眠時間が取れずに、遅刻、居眠り及び業務ミスなどが重なっていることから、本業に支障がある場合として、副業を辞めるように指示することも合理的です。
次に、Aさんに対し、懲戒処分や解雇ができるか問題となります。副業禁止違反を理由とする懲戒処分の有効性については、副業によって会社の企業秩序を乱した程度や業務に対する支障の有無・程度等によって判断されます。
本件では、Aさんは副業によって睡眠時間が取れずに、トイレでの居眠り、遅刻、欠勤及び業務ミスが重なっているうえ、副業を辞めるように指示した後も副業を継続し、相変わらず遅刻等を繰り返していることから、何らかの懲戒処分を行うことは可能であると思われます。もっとも、懲戒解雇は最も重い処分であり最終手段であることから、C社としては、再度副業を辞めるように指示をしたうえで、居眠り、遅刻・欠勤及び業務ミスなどがあった際に、より軽い処分から重ねつつ、副業を辞めるように指示をし、それでもなおAさんが指示に従わなかった場合に、懲戒解雇とした方が後に懲戒解雇の効力を裁判等で覆されるリスクが少なくなります。
また、以上のようなプロセスを踏んでもなお、Aさんが副業を辞めず、業務ミス等がある場合には、普通解雇することも認められると思われます。裁判例においても、一時的なアルバイトではなく、相当期間継続する意図で開始された
二重就職で、会社を継続して欠勤していた場合の懲戒解雇が有効と認められた事例(合資会社阿部タクシー事件・松山地判昭42.2.25判タ218号231頁)や、建設会社の事務員が就労時間終了後の午後6時から深夜0時までキャバレーの会計係をしていた事案で、会社に対する労務の誠実な提供に何らかの支障をきたす蓋然性が高く、懲戒解雇とすべきところを、通常解雇とした本件処置は企業秩序維持のためにやむを得ないものであるとした事例(小川建設事件・東京地決昭57.11.19労判397号30頁)等があります。
以上のことから、C社としては、副業を辞めるように指示をしたうえで、それでもAさんが指示に従わず、ミス等を繰り返す場合に、軽い処分から重ねていき、Aさんの改善を促し、それでも改善しない場合に解雇するという慎重な対応が求められます。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:木村 光)

2019年4月より実施される働き方改革関連法の一環として政府は副業・兼業(以下「副業」という)を容認する方向に舵を切り、副業の普及促進を図っています。今回のC社でのトラブルの法律上の問題点は、弁護士のアドバイスに委ね、ここでは、企業が副業を容認する際の労務管理上の注意点と対応策を検討したいと思います。

 

副業とは

法的は、明確な定義はありませんが、一般的に、①他の会社の従業員として雇用契約を結ぶ、②他の会社の役員になる、③営利を目的とする業務を行う、など簡単にいえば「本業以外で収入を得ている」ことを指します。

 

主な労務管理上の注意点と対応策

(1)労働時間の把握・管理

労働時間の管理・把握は労務管理の基本といえます。
2019年4月からは労働時間把握の義務化が法律上明文化され、「客観的な方法その他適切な方法」で労働時間を把握する必要があります。副業先の労働時間まで把握する義務は負っていませんが、適正な賃金支払や健康管理などに対応するためにも副業先の労働時間を把握することは重要です。
労働基準法38条では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」としています。これ
は事業主が異なる場合も含まれますので、自社と副業先の労働時間を通算することになります。
労働契約の内容や契約の順序、働き方(働かせ方)などの状況によりますが、場合によっては、本業先である自社において割増賃金を支払う必要があります。また、過労死や過労自殺につながり得る長時間労働を防止することも大切です。そのためにも副業先での労働時間を把握するようにしてください。
把握の方法としては、副業に届出制や許可制を導入し、「副業申請書(例)」により事前に副業先での労働日数や労働時間、業務内容、雇用形態などを申告させるとともに、定期的に「副業労働時間等報告書(例)」により労働日数や労働時間などの実績を報告させるとよいでしょう。

 

(2)健康管理への対応

自社では特に過重労働といえなくても自社以外で働くことで、慣れない業務や長時間労働の影響により心身の疲労が蓄積され、その結果、
仕事中に居眠りをしたり、遅刻・欠勤を繰り返したり、集中力を欠きミスを多発するなどの勤怠不良が発生するおそれがあります。さらに、
長時間労働は精神疾患や過労死の原因となりえますが、その原因が自社と副業先のいずれの業務によって生じたものなのかの判断は困難です。
この場合、健康管理措置の有無と実施の状況が、責任の所在がどちらにあるかの判断材料となる可能性があります。
労働契約法5条では「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定め、企業が労働者に対して安全配慮義務を負うこととしており、企業は、これに違反した場合、労働者に対し損害賠償責任を負うこととなります。
副業を容認する場合には、健康管理措置を講ずるとともに、労働者との面談等のコミュニケーションを通して労働者の健康状態に配慮すべきです。

 

(3)就業規則の整備

副業を容認する際の就業規則の主なポイントは、「①労務提供上の支障があるとき、②心身の疲労等が認められるとき、③企業秘密の漏洩の可能性があるとき、④会社の信頼を失墜させるとき、⑤会社の利益を害するとき、⑥会社が副業を許可すべきではないと判断したとき」などの場合には副業を不許可・制限・禁止できる規定や、労働時間等の報告義務、勤怠不良時の懲戒処分に関する規定を設けておくとよいでしょう。

税理士からのアドバイス(執筆:小澄 健士郎)

今回の事案につき、「会社側」と「従業員側」に分けて留意すべきポイントを税理士視点で解説していきたいと思います。

 

【会社側にとってのポイント】

今回の副業問題で会社側に税務上の問題が生じるかは、「給料の支払時」や「退職金の支払時」において考える必要があります。
給料なり、退職金なりを支払う際、会社の経理では、「経費(損金)」として処理することになります。基本的には、給料であれ、退職金であれ、労働の対価として支払われるので、通常問題となることはありません。ただ注意するとすれば、「①労働の対価として不当である場合」、「②経費に入れるタイミング」、そして「③退職金支払時の源泉所得税」でしょう。もう少し具体的にみてみます。

 

①「労働の対価として不当」というのは、「労働時間や業務内容に比して高額の支払いをしている」場合に、その支給は経費として妥当なのかという話となります。今回のケースでは労働者として決まった就労時間で働いている以上(勤務内容や勤務態度に問題はあれ)、税務署によりこの論点について争われることはないでしょう。
この論点が問題となる場合は、その者に対する給料が他の従業員に比べて著しく有利にある場合でなり、通常代表者の配偶者や親族、特殊関係人のケースが多く挙げられます。公平性が重要なので注意が必要です。

 

②「経費に入れるタイミング」についてですが、給与支払日・退職金支払日が過ぎた後にその金額(例えば残業代の未払いなど)で争い、後日決定した場合などが考えられます。会社の経費に算入するタイミングについては、“ 債務確定基準”(法人税法22条)という規定があり、“ 金額”も含め確定したタイミングで経費に入れることになります。そのため、後日金額が確定した日において、未払分につき経費に算入することになります。

 

③「退職金支払時の源泉所得税について」ですが、本来退職金支払時には、給料の支払時と同じく、源泉所得税を徴収しなくてはなりません。その徴収税額は、退職金の支払額に20.42%を乗じた金額となります。しかし、退職時に「退職所得の受給に関する申告書」の記載と捺印がある場合に、退職所得控除額以下の退職金であれば源泉徴収が不要となります。「申告書」の有無によって、徴収する源泉所得税額が異なりますので、注意してくだ
さい。

 

【従業員側にとってのポイント】

従業員側で考える際には、「収入」があれば、それは原則、「税金」の対象になるということです。収入別に考えたいと思います。

 

①副業の収入について

税金は、「収入-経費=利益」この「利益」に対して課税されます。その利益が(税務用語では“ 所得” といいます)20万円超である場合には、
確定申告をしなくてはなりません。また、その際副業の収入に関しては「雑所得」という区分に該当することになります。

 

②退職金の収入について

もし退職することになり退職金を取得することになれば、その収入も“ 原則” 確定申告対象となります。しかし、「退職所得の受給に関する申
告書」を提出していれば、確定申告は不要となります。

 

③未払残業代等の支払いがあった場合について

 未払残業代等の支払いが後日あった場合には、過去分の未払残業代については、過去に遡って修正することになります。和解金の場合だと、
取得することが決まった年の確定申告において、「雑所得」か「一時所得」で計算することになりますので注意してください。

 

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
SRネットは、全国展開に向けて活動中です。


SRネット北海道 会長 安藤 壽建  /  本文執筆者 弁護士 高田 英明、社会保険労務士 木村 光、税理士 小澄 健士郎



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