第204回 (平成31年1月号) SR東京会
「同一労働同一賃金って何?…」「来年から働き方改革で変わるらしいよ!」
「パートもアルバイトも正社員も給料同じってこと?」
「同一労働同一賃金って何?…」「来年から働き方改革で変わるらしいよ!」
「パートもアルバイトも正社員も給料同じってこと?」
SRネット東京(会長:小泉 正典)
K協同組合への相談
先月に引き続き、組合員企業B社からのご相談です。ドラックストアと調剤薬局を経営しているB社。M&Aで業務拡大をする一方、採算割れの店舗は閉店や売却するなど、バランスをとっています。
社長はもともとある店舗の店長で、現場のことはよくわかっていますが、どうしても企業としての利益も確保しなくてはならないため、人手不足からくる長時間労働には目をつぶってきました。ところがやはり、せっかく採用しても現場の厳しさからすぐ辞めてしまったり、薬剤師と一般社員との待遇差に不満が出てしまったりしています。
先日の働き方改革関連法案可決・成立のニュースは、B社でも話題となり、経営陣と総務で今後の対応について協議することとなりましたが、具体的に何が変わり、どのように対応していったらよいのか分からず、K協同組合へ相談をしました。相談を受けた事務局担当者は、専門的な相談内容について連携している地元のSRアップ21を紹介することにしました。
相談事業所 組合員企業B社の概要
-
- 創業
- 1985年
- 社員数
- 正規30名 非正規45名
- 業種
- 小売・調剤薬局業
- 経営者像
後継者がいない調剤薬局をM&Aにより業務拡大をしてきたB社。現在の社長は薬剤師ではないものの、ドラッグストアの店長出身で現場のことはよく知っている。ただ、利益もあげていかないといけないため、採算が取れない店舗は廃止したり、売却したりしている。
トラブル発生の背景
働き方改革関連法についての相談です。
過労死等の防止のため、長時間労働抑制や、有給休暇取得義務、同一労働同一賃金など改正される法律も幅広く、どんなことが変更となり、会社としてどんな対応がいつから必要なのか、何から手をつけていいのか困っています。B社は、パート、アルバイトの非正規労働者を多く雇用しており、また、一部店舗では派遣労働者も受け入れています。
ポイント
今回の「働き方改革関連法」とは、どのようなものなのか?
法律の内容、いつから施行となるのか、会社としてやるべきことは…?
弁護士からのアドバイス(執筆:-)
社会保険労務士からのアドバイス(執筆:小泉 正典)
先月号に引き続き、「働き方改革関連法」、今回はそのなかの『雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(同一労働同一賃金)』について解説いたします。
Ⅰ. 先月号のおさらい
「働き方改革関連法」…って何?
働き方改革関連法と言われますが、正式には「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」といい、平成30年6月29日に参院本会議で可決・成立、平成30年7月6日に公布されました。関係法律とあるように一つの法律ではなく、①労働基準法、②労働安全衛生法、③労働契約法、④パートタイム労働法、⑤雇用対策法、⑥労働時間等設定改善法、⑦じん肺法、⑧労働者派遣法、以上の8つの法律で構成されています。「働き方改革」により、労働者それぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進するため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のための措置を講ずる、とされ、以下の3つの柱をあげています。
特に、(2)長時間労働の是正(先月号で解説)と、(3)公正な待遇の確保(同一労働同一賃金)がキーワードとなっています。働き方改革関連法は平成31年4月1日から順次施行されます。
(1) 働き方改革の総合的かつ継続的な推進
(2) 長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等
(3) 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(同一労働同一賃金)
先月号では、(1)、(2)について解説いたしましたが、今号では、(3)雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(同一労働同一賃金)について触れたいと思います。
Ⅱ. 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
(同一労働同一賃金)とは?
1.同一労働同一賃金
働き方改革の柱のひとつでもある同一労働同一賃金とは、同一企業内における正規労働者と非正規労働者の間の不合理な待遇差を解消するためのものです。非正規労働者とは、パートタイム労働者、有期雇用契約労働者、派遣労働者の3種類の労働者をいいます。また、不合理な待遇差とは、同一企業内で、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、個々の待遇ごとに基本給や賞与などの差を設けることですが、具体的な例については、今後の「同一労働同一賃金ガイドライン(確定版)」により明確な基準が示される予定です。この同一労働同一賃金については、施行日までに以下の(1)~(3)について統一的な整備が必要となります。大企業は、平成32年4月1日、中小企業は、平成33年4月1日施行となります。
(1)不合理な待遇差をなくすための規定の整備
「同一労働同一賃金」とは、分かりやすく言うと、「雇用形態にかかわらず、同じ仕事をしているならば同じ賃金を支払うべきである。また、実態に違いがあるならば、実態の違いに応じた賃金を支払うべきである」という考え方です。前者の考え方が【均等待遇】、後者の考え方が【均衡待遇】となりますが、この【均等待遇】【均衡待遇】をパートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者について統一的に整備(規定)しなければならないということです。
以下、説明を分かりやすくするために、【均衡待遇】、【均等待遇】の順で説明します。
【均衡待遇】
以下の①~③の相違を考慮して不合理な待遇差を禁止しています。
①職務内容(業務の内容+責任の程度)
②職務内容・配置の変更範囲
③その他の事情
判断としては、①基本給、賞与、福利厚生その他の待遇のそれぞれについて、その待遇に対応する通常の労働者の待遇と比較します。②「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」のうち、待遇の性質・目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理の有無を判断します。
≪参考≫改正パートタイム労働法 第8条
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
労働契約法第20条だったものが、改正パートタイム労働法の第8条に移ってきたもので、均衡待遇はもともと存在していました。あまりクローズアップされていませんでしたが、先日の長澤運輸事件(最判平30. 6. 1※)で注目されました。長澤運輸事件は、「定年後の再雇用」が、その他の事情とされた事例となりますが、必ずしも定年後再雇用がすべてあてはまるかというと、そうではないため、安易に定年後再雇用の部分だけをとって、違いがあるので直ちに待遇を変えることには注意が必要です。※長澤運輸事件の場合は、定年後再雇用の労働者への待遇について、何度も労使間で話合い(団体交渉)がもたれ、改善があり、労働者の受ける賃金も一般の社員より優遇されている部分等もあったということも考慮された事例です。
【均等待遇】
以下が同じ場合は差別的な取扱いを禁止しています。
①職務内容(業務の内容+責任の程度)
②職務内容・配置の変更範囲
判断としては、①「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」が同一の通常の労働者の待遇と比較します。②基本給、賞与、福利厚生その他の待遇のそれぞれについて、パートタイム労働者・有期雇用労働者であることを理由とする差別的な取扱いは、不合理であるとして禁止されます。
これまでは、どのような待遇差が不合理にあたるのかが明確になっていませんでした。今後は待遇ごとに判断することを明確化し、ガイドラインの策定によってその解釈が明確に示される予定です。なお、すでに平成2₈年12月に公表されている「同一労働同一賃金ガイドライン案」によって、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理なものでないのかが示されています。典型的な事例として整理できるものについては、問題とならない例・問題となる例というかたちで具体例が付されていますので、ご参照ください。
▼同一労働同一賃金ガイドライン案(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html
※言葉の意味
「職務内容」とは「業務の内容と業務にともなう責任の程度」をいい、労働者の就業の実態を表す要素のうちで最も重要なもの。「業務」とは、職業上継続して行う仕事のこと。「責任の程度」とは、業務にともなって行使するものとして付与されている権限の範囲、程度のこと。
「配置の変更範囲」とは、転勤や昇進を含む、人事異動や本人の役割の変化等の有無や範囲のこと。
≪参考≫改正パートタイム労働法 第9条
事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第11条第1項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。
先ほどの①と②が同じ場合、非正規労働者であることを理由に待遇面で差別的取扱いをしてはならない。つまり、基本給・賞与、各種手当、福利厚生、教育訓練等を同一待遇にすることとなります。職務や責任が同じであれば、差別をしてはならないという条文です。職務、責任が同じでも、転勤等が正規労働者にあり、非正規労働者にはないのであれば、均等待遇にはあたりませんが、転勤等のない正規労働者がいた場合は、その正規労働者とは同一待遇(=均等待遇)をする必要があります。均衡待遇と比べるとかなりシビアな条文であり、該当すると賃金等の条件引き上げるか、正規労働者の待遇を引き下げることになりますが、待遇引き下げは不利益変更となるので、簡単にはできません。
(2)派遣労働者についても同一労働同一賃金パートタイム労働者・有期雇用労働者の比較
対象が、同一の事業主に雇用される通常の労働者であったのに対し、派遣労働者については、基本的には派遣先の通常の労働者が比較対象となります。この比較を適切に行うための前提として、派遣先から派遣元への、派遣先労働者の待遇に関する情報の提供が義務づけられました。
「均衡待遇」、「均等待遇」ともに、比較対象が異なるだけで、判断の仕方はパートタイム労働者・有期雇用労働者と同じです。これが原則的なルールとなるわけですが、派遣元が派遣労働者の待遇について、一定の基準を満たす労使協定を締結しているときは、このルールは適用されず、労使協定に基づいて待遇を決定することになります。この労使協定については、派遣元事業主が労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数代表者との間で締結する必要があります。
(3) 労働者に対する、待遇に関する説明義務の強化
非正規雇用労働者は、「正社員との待遇差の内容や理由」など、自身の待遇について説明を求めることができるようになります。事業主は、非正規雇用労働者から求めがあった場合は、説明をしなければなりません。これまでもパートタイム労働者については、事業主に対して、待遇内容や待遇決定に際しての考慮事項に関する説明義務が課されてきました。今回の法改正により、この説明義務の対象に有期雇用労働者が追加され、説明義務の内容も拡充されています。
① 有期雇用労働者に対し、本人の待遇内容及び待遇決定に際しての考慮事項に関する説明義務が創設
② パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者について、事業主に正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等の説明義務が創設
③ 説明を求めた場合の不利益取扱い禁止が創設この改正事項については、平成32年4月(中
小企業は平成33年4月)から施行されます。
2. 行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)
行政ADRとは、事業主と労働者との間の紛争を、裁判をせずに解決する手続のことをいいます。都道府県労働局において、無料・非公開の紛争解決手続を行います。「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由」に関する説明についても、行政ADR の対象となります。
3.実務対応のポイント
以上を踏まえて、会社としては、就業規則や賃金規程の見直し、人事制度の見直し等により、処遇の差について曖昧な部分を残さず、従業員に対してきちんと説明ができるよう準備をしておく必要があります。取っ掛かりとしては、正規労働者と非正規労働者の現状を確認し、待遇差を合理的に説明できるよう、先ほどの①職務内容(業務の内容+責任の程度)、②職務内容・配置の変更範囲、③その他の事情などの調整を行うことが必要です。
施行までにまだ少し時間がありますので、しっかり取り組んでいけばリスクは少なくなります。シビアな法律ですが、雇用形態にかかわらず公正な待遇を確保することで、従業員が納得感をもって働き、モチベーション向上、生産性向上、効率化にもつながっていくと考えます。
税理士からのアドバイス(執筆:-)
社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
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SRネット東京 会長 小泉 正典 / 本文執筆者 弁護士 -、社会保険労務士 小泉 正典、税理士 -