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第203回 (平成30年12月号) SR東京会

「有給休暇もなかなか取得できない…」「残業が多すぎるんじゃないか?」
「来年から変わるらしいよ!」

SRネット東京(会長:小泉 正典)

K協同組合への相談

ドラックストアと調剤薬局を経営しているB社。M&Aで業務拡大をする一方、採算割れの店舗は閉店や売却するなど、バランスをとっています。
社長はもともとある店舗の店長で、現場のことはよくわかっていますが、どうしても企業としての利益も確保しなくてはならないため、人手不足からくる長時間労働には目をつぶってきました。ところがやはり、せっかく採用しても現場の厳しさからすぐ辞めてしまったり、薬剤師と一般社員との待遇差に不満が出てしまったりしています。
先日の働き方改革関連法案可決・成立のニュースは、B社でも話題となり、経営陣と総務で今後の対応について協議することとなりましたが、具体的に何が変わり、どのように対応していったらよいのか分からず、K協同組合へ相談をしました。相談を受けた事務局担当者は、専門的な相談内容について連携している地元のSR アップ21を紹介することにしました。

相談事業所 組合員企業B社の概要

創業
1985年

社員数
正規30名 非正規45名

業種
小売・調剤薬局業

経営者像

後継者がいない調剤薬局をM&Aにより業務拡大をしてきたB社。現在の社長は薬剤師ではないものの、ドラッグストアの店長出身で現場のことはよく知っている。ただ、利益もあげていかないといけないため、採算が取れない店舗は廃止したり、売却したりしている。


トラブル発生の背景

働き方改革関連法についての相談です。
過労死等の防止のため、長時間労働抑制や、有給休暇取得義務、同一労働同一賃金など、改定される法律も幅広く、どんなことが変更となり、会社としてどんな対応がいつから必要なのか、何から手をつけていいのか困っています。

ポイント

今回の「働き方改革関連法」とは、どのようなものなのか? 法律の内容、いつから施行となるのか、会社としてやるべきことは…?

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:なし)

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:小泉 正典)

先般、「働き方改革関連法」が国会で成立し、公布されました。具体的にどのような法律なのか? 今後どのような対策が必要となってくるのか?を解説いたします。

 

Ⅰ.「働き方改革関連法」…って何?

働き方改革関連法と言われますが、正式には「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」といい、平成30年6月29日に参院本会議で可決・成立、平成30年7月6日に公布されました。関係法律とあるように一つの法律ではなく、①労働基準法、②労働安全衛生法、③労働契約法、④パートタイム労働法、⑤雇用対策法、⑥労働時間等設定改善法、⑦じん肺法、⑧労働者派遣法、以上の8つの法律で構成されています。「働き方改革」により、労働者それぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進するため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のための措置を講ずる、とされ、以下の3つの柱をあげています。特に、(2)長時間労働の是正と、(3)公正な待遇の確保(同一労働同一賃金)がキーワードとなりそうです。

 

(1)  働き方改革の総合的かつ継続的な推進
(2)  長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等
(3)  雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(同一労働同一賃金)
なお、働き方改革関連法は平成31年4月1日から順次施行されます。

 

 

Ⅱ.3つの柱

1. 働き方改革の総合的かつ継続的な推進とは…?

働き方改革に係る基本的考え方を明らかにするとともに、国は、改革を総合的かつ継続的に推進するための「基本方針」(閣議決定)を定めることとしました(雇用対策法)。
※( 衆議院において修正)中小企業の取組みを推進するため、地方の関係者により構成される協議会の設置等の連携体制を整備する努力義務規定も創設されています。
事業主の責務について、「職業生活の充実」に対応したものが加わりました。労働者の労働時間の短縮その他の労働条件の改善など、労働者が生活との調和を保ちつつ意欲と能力に応じて就業できる環境の整備に努めなければならない、とされています。

 

2.長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等とは…?

今回大きく変わる部分です。大企業は、平成31年4月1日から、中小企業も一部以外は平成32年4月1日の施行となります。
労働時間に関する制度の見直し(労働基準法、労働安全衛生法)としては、以下への取組みが必要となります。

 

1)長時間労働の是正

①時間外労働の上限規制の導入

時間外労働の上限について、原則、月45時間、年360時間とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)が限度となります。また、時間外労働の上限を超えた場合、罰則が適用となります。36協定届の届出はもちろん、上限の確認、特別条項にも限度が課せられるので、注意が必要です。

 

<自動車運転の業務>

改正法施行5年後に、時間外労働の上限規制を適用。上限時間は、年960時間とし、将来的な一般則の適用について引き続き検討する旨を附則に規定。

<建設事業>

改正法施行5年後に、一般則を適用(ただし、災害時における復旧・復興の事業については、1カ月100時間未満・複数月平均80時間以内の要件は適用しない。この点についても、将来的な一般則の適用について引き続き検討する旨を附則に規定)。

<医師>

改正法施行5年後に、時間外労働の上限規制を適用。具体的な上限時間等は省令で定めることとし、医療界の参加による検討の場において、規制の具体的あり方、労働時間の短縮策等について検討し、結論を得る。

<鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業>

改正法施行5年間は、1カ月100時間未満・複数月80時間以内の要件は適用しない(改正法施行5年後に、一般則を適用)。

<新技術・新商品等の研究開発業務>

医師の面接指導(※)代替休暇の付与等の健康確保措置を設けたうえで、時間外労働の上限規制は適用しない。
(※) 時間外労働が一定時間を超える場合には、事業主は、その者に必ず医師による面接指導を受けさせなければならないこととする(労働安全衛生法の改正)。

 

② 中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し

月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50% 以上)について、中小企業への猶予措置が廃止されます(平成35年4月1日施行)。

 

③ 一定日数の年次有給休暇の確実な取得

使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととする。

 

④ 労働時間の状況の把握の実効性確保

労働時間の状況を省令で定める方法
(※)により把握しなければならないこととする(労働安全衛生法の改正)。

※ 省令で使用者の現認や客観的な方法による把握を原則とすることを定める。

 

2)多様で柔軟な働き方の実現

①フレックスタイム制の見直し

 フレックスタイム制の「清算期間」の上限が1カ月から3カ月に延長されます。

 

② 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設

職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、年間104日の休日を確実に取得させること等の健康確保措置を講じること、本人の同意や委員会の決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定が適用除外とされます。
※ 健康確保措置として、年間104日の休日確保措置を義務化。加えて、①インターバル措置、②1カ月又は3カ月の在
社時間等の上限措置、③2週間連続の休日確保措置、④臨時の健康診断のいずれかの措置の実施を義務化(選択的措置)。
※ 制度の対象者について、在社時間等が一定時間を超える場合には、事業主は、その者に必ず医師による面接指導を受
けさせなければならないこととする(労働安全衛生法の改正)。
※ 対象労働者の同意の撤回に関する手続きを労使委員会の決議事項とする。

 

フレックスタイム制の清算期間の上限を延長することで、より柔軟な働き方ができると考えられます。話題となった高度プロェッショナル制度については、本人の同意がポイ ントで、これは同意後も撤回できるようになっています。

 

Ⅲ .長時間労働の是正について、至急、対策を検討しなければならないこと

 

では、もう少し踏み込んで、長時間労働の是正に関して、実際の現場でやらなければならないことについて考えてみましょう。

 

1.年間5日以上の年次有給休暇の確実な取得

使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、年間5日について、毎年、時季を指定して年次有給休暇を与えなければならないこととする。年間5日の年次有給休暇取得が、平成31年4月1日より義務化されます。年次有給休暇の取得率が低迷しており、正規労働者の約16%が年次有給休暇を1日も取得していない、また、年次有給休暇をほとんど取得していない労働者の長時間労働比率が高い実態を踏まえ、年次有給休暇の取得が確実に進む仕組み(法整備)の導入となりました。対象者となるのは、入社半年後のフルタイム労働者、入社3年半以上等のパートタイム労働者となります。
いずれも出勤率が8割以上であることなどについては、従来の有給休暇付与のルールと変更はありません。注意すべきは、パートタイム労働者です。週30時間以上又は週5日以上のパートタイム労働者は、通常の労働者と同じ日数の年次有給休暇が付与されますが、それ以外のパートタイム労働者には「比例付与」という形で、年次有給休暇が付与されます。このため、パートタイム労働者であっても、今回の年次有給休暇の確実な取得の対象となる労働者となる場合があります。
また、使用者の時季指定の方法については、確実な年次有給休暇の取得を促進するため、以下の義務と努力義務が課せられます。

①労働者に時季の希望を聴取(義務)
② 希望を踏まえたうえで、時季指定(努力義務)
③○月×日に年次有給休暇取得

 

労働者にあらかじめ年次有給休暇を与えることを明らかにしたうえで、その時季について意見を聴かなければならない、とされ、意見を聴くことは義務となります。ただ、実際の時季指定については、できる限り労働者の希望を尊重するということが、努力義務となっていますので、必ずしも希望どおりの時季に与えることまでは求められていません。

また、例えば、以下のケースは、年間5日の年次有給休暇を取得しているため、使用者の時季指定は不要となります。

①労働者が自ら5日取得
② 労働者が自ら3日取得+計画的付与2日

※ 計画的付与とは、年次有給休暇については、年間5日までは、労使協定により、計画的に与える時季を決定することができます。これを計画的付与と言いますが、この計画的付与については、従来どおりのルールとなります。届け出は必要ありませんが、必ず労使協定が必要となりますのでご注意ください。

 計画的付与の場合は、会社又は部署での一斉付与が一般的かと思います。この場合、年次有給休暇がない労働者への対応をどうするかが問題となります
が、一斉付与という性質上、年次有給休暇がない労働者には特別付与という形で、休暇付与をしていくことが実務上わかりやすく、トラブルがないかと考えられます。

 

その他、ご参考までにですが、半日単位の年次有給休暇取得については、「労働者が半日の取得を希望して時季を指定し、これに使用者が同意した場合であって、本来の取得方法による休暇取得の阻害とならない範囲で適切に運用される限りにおいて、問題がないものとして取り扱う」という従来ルールに変更はないようです。また、使用者の時季指定についても、労働者から半日単位での取得希望があった場合、半日単位での時季指定を行うことも差し支えありません。半日単位の年次有給休暇は0.5日として取り扱われます。

 

ほかには、年次有給休暇管理簿を作成しなければなりません。労働者ごとの年次有給休暇の取得状況を確実に把握するため、使用者は年次有給休暇の管理簿を作成することが義務となります。『年次有給休暇を与えた時季、日数及び基準日を労働者ごとに明らかにしたもの』で、労働者名簿や賃金台帳とあわせて調製することができるもの、となります。なお、年次有給休暇管理簿は、当該年次有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後3年間の保存が必要です。
年間5日以上の年次有給休暇の確実な取得については、以下のチェック項目を確認し、来年の4月に備えておきましょう。

違反した場合、30万円以下の罰金規程の適用があります。

□ 取得させる必要のある労働者の確認
□ 年次有給休暇の付与日、時効などの確認
□ 計画的付与の導入検討→導入する場合は、就業規則の整備、労使協定締結
□ 個別への時季指定の意見聴取手続き、指定方法の検討
□有給休暇管理簿の作成

 

2.勤務間インターバル制度の普及促進等(労働時間等設定改善法)

努力義務ですが、事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなくてはならない、とされました。

また、事業主の責務として、短納期発注や発注の内容の頻繁な変更を行わないよう配慮するよう努めるものとするとされています。勤務の終業時間と翌日開始の間を一定時間空けることにより、休息時間を確保し、実質的に労働時間を短縮させるという制度です。例えば、終業時間が9:00~18:00の企業で、仮に24:00まで残業した場合、その11時間後の翌日11:00までは、9:00の始業時間を過ぎたとしても、労働させてはならないという決まりです。
これにより労働者は休息時間を確保することができ、過重労働による健康被害から労働者を守ることになります。

 

働き方改革法、二つ目のキーワード『雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(同一労働同一賃金)』については、来月号で解説いたします。

税理士からのアドバイス(執筆:なし)

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SRネット東京 会長 小泉 正典  /  本文執筆者 弁護士 なし、社会保険労務士 小泉 正典、税理士 なし



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