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第145回 (平成26年2月号) SR北海道会

「制服の取扱いをどうしよう?」
貸与?買取り?一部自己負担?

SRネット北海道(会長:安藤 壽建)

R協同組合への相談

A社の社長は、創業前からR協同組合が実施するさまざまな経営研修を受講し、創業と同時にR協同組合に正式加入して、現在も事業活動のサポートを受けています。

均一価格販売の店舗が多い中、A社の店舗は、店内照明をかなり明るくし、店員には、お揃いの帽子・ジャンパー・スニーカーを着用させ、イメージアップを図る作戦が成功しているようです。

しかし、店舗の華やかさとは裏腹に、アルバイトやパートの定着率が悪く、退社する者の半数近くが、ユニフォームを返さないという頭痛の種もありました。

そこで、一年程前から、ユニフォームを返さない者に対しては、最終給与から「ユニフォーム弁済金」として、1万円を天引きしていました。このことは、採用時に説明し、書面こそとっていないものの、アルバイト達は了承していたそうです。

ある日のこと、社長宛に電話がかかってきました。「娘が3日も働いたのに、給与がマイナスになっている!いったいどういうことだ!」とすごい剣幕です。実は、このアルバイトは、1日3時間勤務の高校生でしたが、「学校でアルバイトを注意された…」と3日で退社した者でした。A社では退職後2週間たってもユニフォームを返却しなかったため、3日分の給与8,550円とユニフォーム弁済金1万円を相殺した給与明細書と会社への振込案内を自宅に送付した経緯があります。A社の社長は必死に説明しましたが「賃金と相殺するのは違法だ!すぐに給与を持ってこい!」と父親は納得する気配がありません。激怒する親から、なんとか3日の猶予をもらったA社社長は、次の日に組合事務局を訪れました。

「最初に説明したのだが…しかし、親も親だな…」と嘆いています。

高校生アルバイトの親への対応もありますが、今後の制服の取扱いに関する対策も重要と考えた組合事務局は、連携している地元のSRアップ21を紹介することにしました。

相談事業所 組合員企業A社の概要

創業
2010年

社員数
正規 25名 非正規 120名

業種
生活用品等小売業

経営者像

均一低額価格で生活雑貨等さまざまな商品を販売するA社の社長は53歳。県内に5店舗を有するA社は、競合店を尻目に開業以来躍進を続けています。正社員は店長のみで、あとはアルバイト・パートが戦力というなかで、A社社長も若々しく働く毎日です。


トラブル発生の背景

最初は「仕方ない」と考えていた制服未返却問題でしたが、数が増えるにつれ「返済なき場合は1万円の弁済金」というルールを実行していたA社です。これまでも給与明細をもらって驚いたアルバイト達があわてて制服を返却してくるケースがありましたが、今回のように親が怒鳴り込んでくるのは初めてのことでした。
A社の就業規則には、この弁済金は定義されておらず、雇用契約書にも記載がありません。また、「制服貸与・預り証」といった書式も利用していませんでした。
さらに、賃金控除協定の存在など知らないA社社長は、単純に「弁償」と考えていたところがあります。

ポイント

高校生アルバイトの親への対処はもとより、会社からの貸与品管理に関する合法的かつ経済的なルールが必要です。
また、「なぜ定着率が悪いのか」ということに関して、小規模店舗の労務管理全般を見直す必要がありそうです。
A社が検討すべき今後の改善案も含めて、A社の社長への良きアドバイスをお願いします。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:加藤 正佳)

A社では、退社するアルバイトによるユニフォーム未返却問題への対策として、予め弁償金として定めた1万円を最終給与から控除する「ユニフォーム弁済金」制度を実施していました。

しかし、この制度は、労使間の損害賠償を予定する合意を禁止する、労働基準法16条に反する制度です。A社では、採用時にアルバイトがこのことを了承していたという事情もあるようですが、労働基準法に違反する無効な合意である以上、ひとたび紛争になってしまえば、このような事情は考慮されません。

労働基準法第16条は、損害賠償額を予定する契約を禁止しているだけですので、労働者の故意、または(重)過失により、現実に損害が発生した場合に、使用者がその損害賠償を求めることは、差し支えありません。したがって、A社は、ユニフォームを返却しないアルバイトに対し、ユニフォームを返却するよう求めることもできれば、相当額の損害の賠償を求めることもできます。

もっとも、裁判所では、賠償を命じる額につき、労働者の経済力や使用者が普段から労働者の労働により利益を得ているという実態を踏まえて、その仕事の内容、損害を生じさせた行為の態様、そのような行為を予防するための使用者の配慮等諸般の事情に照らし、相当と認められる限度においてのみ、賠償を命じる傾向にあります。

たとえば、茨城石炭商事事件(最判昭和51年7月8日民集30巻7号689頁)では、損害額の4分の1を賠償の上限としていますし、3回目の事故による自動車ドアの破損代金3万円のうち、1万円についてのみ賠償を認めた九州航空事件(福岡地判平成4年2月26日労判608号35頁)もあります。さらには、最近では、労働者に重過失がないことを理由に損害賠償自体を否定した事案もあります(エーディーディー事件(京都地判平成23年10月31日労判1041号49頁))。

実際にどの程度の賠償が命じられるのかは、事案によって異なりますが、労働者に対し損害賠償を請求する場合には、横領等の場合を除き、損害額全額の賠償が命じられることはないと考えた方がよいように思います。

それでは、A社が、ユニフォームを返却しないアルバイトが出ないよう、事前にとりうる措置としては、どのようなものが考えられるでしょうか。これは、会社の貸与品管理全般に関わる問題です。

昨今、会社の貸与品管理に関して多いのがパソコンを巡る問題で、インターネットの私的利用を制限するため、使用方法等を詳細に規定した利用規程を定める会社が増えていることがあげられます。

しかし、このような利用規程を作成したことにより、貸与品の私的利用を処分できるかというと、それだけでは十分ではありません。A社のユニフォームに話を戻せば、ユニフォームの管理方法や返却方法等について詳細に書かれた利用規程を定めた上、貸与時に、労働者に対し、その利用規程に従って利用する旨の誓約書を提出させる等の措置を講じることも考えられます。ただし、先ほど述べたとおり、利用規程の中に損害賠償を予定する条項を入れることはできません。

また、誓約書を提出させたからといって、実際に返却しないアルバイトも存在するでしょう。しかし、損害賠償の予定ではない方法で、事前にできる限りの対応をするには、このような方法が穏当です。少なくとも、利用規程の説明に加えて、誓約書を書かせることで、労働者にユニフォームをしっかり返却するよう今まで以上に働きかけることができるでしょう。

ところで、A社に対しては、アルバイトの親が、娘の賃金を支払うよう求めています。 先に述べたとおり、労働基準法第16条は、損害賠償を予定することを禁止しているだけでなく、同法第24条は、賃金の全額払いの原則を定めており、労働者の同意なく、賃金と会社が有する他の債権(例えば、損害賠償請求権)とを相殺することは、同条に反し許されません。

したがって、A社は、アルバイトに対し、3日分の賃金全額を支払う必要があります。 ここで注意が必要なのは、未成年者の親といえども、親権者が、未成年者に代わって賃金を受け取ることは、労働基準法第59条により禁止されているということです。

そのため、賃金を支払うに際しては、親に直接渡すのではなく、採用時にアルバイトが指定した方法により支払う等の対応が必要となります。 

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:木村 光)

A社で発生したトラブルに関する法律上の問題は、弁護士のアドバイスをご確認いただき、ここでは、制服等の貸与品管理、アルバイト・パートの定着率促進対策、また、その他の労務管理上の注意点を検討したいと思います。

制服等の貸与品管理について
今回は制服に焦点を絞って検討します。様々な理由により、制服の買取りや代金の一部を自己負担させている会社もあるでしょう。しかし、仕事中に制服の着用を義務付けている以上、制服は会社が貸与すべきものと考えます。

就業規則・制服貸与規程
制服を貸与するにあたり、就業規則に制服の貸与に関する項目を設けるか、別途、制服貸与規程を作成し、制服の管理に関するルールを明確にしてください。また、就業規則や制服貸与規程は、社員に周知・説明したうえでルールを運用する必要があります。
規程内に定義すべき事項としては、次のとおりです。

?制服を着用する目的・場所・時間・その他の使用上のルール
?貸与する制服の種類・枚数・耐用年月数
?貸与を受ける際の手続き方法
?クリーニング・その他保管に必要な費用の負担
?破損時や滅失時の対応・費用の負担
?退職時の返却義務・返却方法
?その他の遵守事項
?罰則
          などを規定しておくと良いでしょう。

労使協定
社員にクリーニング代などの費用を負担させる場合は、労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数を代表する者(過半数労働組合がない場合)との間で賃金控除に関する労使協定(労働基準法第24条第1項但書)を締結する必要がありますのでご注意ください。

雇用契約書
入社時に締結する雇用契約書には、制服の貸与・返却に関するルールを明記する。さらに、制服貸与申請書を記入してもらい、預り証を発行するなどして「制服は支給されている物ではなく、貸与を受けている物であり、退職時には返却しなければならない。」との意識付けをしておくことも重要です。

退職時に制服を返却しない社員への対応
弁護士が言及している誓約書の提出の他に、制服貸与時に「預り金」を徴収し、退職時に制服と交換で「預り金」を返還する方法や普段の給与を振込みにしている場合には、就業規則に『退職時の給与は、本人指定金融機関等の口座への振込みにはよらず、直接手渡しにより支払う』との規定を設け、最後の給与を会社まで受取りに来てもらい、その際に制服を返却してもらうという方法もあります。

実際にこの様な方法を採ることによって、確実に制服などの貸与物が返却されるようになった会社も多くあります。

アルバイト・パートの定着率促進対策について
定着率向上の対策を講ずる前に、まずは、職場内にどのような問題が存在しているのかを把握する必要があります。

退職の理由が個人的な事情による理由でない限り、職場内に何らかの問題が存在していると考えるべきです。問題点を把握しないまま、どの様な対策を講じてもうまくいくことはないでしょう。たとえば、人間関係の悩みで退職する者が多いのに、採用の方法を見直したり、賃金を上げてもほとんど意味はありません。

問題点を把握する方法としては、アルバイトやパートから退職の意思表示があったら、具体的に、どの様な問題点があり、どの様な理由で退職するのか、よく話し合いをしてください。経営者や上司には、話しづらいという退職者もいるでしょう。その場合は、退職者と仲の良い同僚に協力をしてもらうのも一つの方法です。

また、現在の職場にどの様な問題点があるのかを現有社員と話し合うことも必要です。

その上で、把握した問題を解決していくことが定着率向上の対策案といえるものと思います。大切なのは、経営者が「職場内の問題を解決する。」と明確に意思表示をしたうえで対策案を提示し、実行することです。経営者の真剣さが伝わるだけでも、職場内の雰囲気が改善され、定着率も向上してくると思います。

今回、トラブルの原因となった高校生アルバイトが退職した理由は、「高校でアルバイトを注意された…」ということでした。労働基準法上、高校生については、学校からアルバイトの許可を受けているのかどうかを確認するために、学校の証明を求めたり、学校に直接確認をする必要はありません。しかし、少なくとも本人および親権者には、身元保証書等の書面で確認するべきでした。

学校に内緒でアルバイトをしていたことが発覚して、何らかの処分を受けてしまった場合、その後の人生を左右してしまう可能性もあることを考慮に入れなくてはなりません。「アルバイトの許可を学校から受けていない高校生は、雇入れない」という姿勢も経営者には必要だったのではないでしょうか。

税理士からのアドバイス(執筆:臼井 雅浩)

税理士としては本件の制服貸与を現物給与の観点から捉え、その税務上の取扱いや留意点などについてご説明していきます。

制服貸与については原則として所得税は非課税となります。

ただし貸与の方法次第では給与課税されることもあり、その場合、会社は所得税を源泉徴収して納付しなければなりません。

源泉所得税は税務調査では特に厳しくチェックされますので、源泉徴収漏れには十分な注意が必要です。

実務上は給与課税されない(源泉徴収の必要がない)方法を選択することが賢明です。

それでは、ここからはA社の事例を根拠条文等と照らし合わせながら一つひとつ確認していきます。

所得税法第9条第1項第6号(非課税所得)では、給与所得を有する者がその使用者から受ける金銭以外の物(経済的な利益を含む。)でその職務の性質上欠くことのできないものとして政令で定めるもの、となっています。

金銭以外の物となっていますから、制服代や被服手当などの現金を支給した場合は、原則として給与課税されてしまいますので注意してください。

その上で非課税所得とされるためには、当該現物給与が「職務の性質上欠くことのできないもの」であるということがまずは要件となります。

A社のお揃いのユニフォームは、お客さんが一目で店員だとわかる効果があると同時に、明るい店づくりというイメージアップ戦略にも合致していますので、「職務の性質上欠くことのできないもの」といえます。

さらに本法では当該非課税所得の具体的な範囲を次の政令に委ねています。

所得税法施行令第21条(非課税とされる職務上必要な給付)
法第9条第1項第6号 (非課税所得)に規定する政令で定めるものは、次に掲げるものとする。
一  略
二  (前略)・・・使用者から支給される制服その他の身回品
三  (前略)・・・制服その他の身回品の貸与を受けることによる利益
四  略

国税庁の質疑応答事例によれば、制服とは警察職員、消防職員、刑務職員、税関職員、自衛官、鉄道職員などのように組織上当然に制服の着用を義務付けられている一定の範囲の者に対し使用者が支給するものとなっています。

しかし、これでは公務員等に限定されてしまいますので通達により制服の要件が緩和されています。

所得税法基本通達9?8(制服に準ずる事務服、作業服等)
専ら勤務場所のみにおいて着用する事務服、作業服等については、令第21条第2号及び第3号に規定する制服に準じて取り扱って差し支えない。

そして事務服、作業服等の支給、または貸与が非課税とされるためには次の2つの要件をともに満たす必要があります。

(1)(前略)・・・私用には着用しない、または着用できないものであること
(2)事務服等の支給、または貸与が、その職場に属する者の全員、または一定の仕事に従事する者の全員を対象として行われるものであること・・・(後略)

A社の場合は店員全員にユニフォームを貸与しており、(2)については特に問題はありません。

注意すべきなのは(1)の要件です。社名やロゴマークを目立つように入れるなどプライベートでは着用しづらくなるような工夫が求められます。

また、通勤時の着用も原則として認められていませんので、その旨規程の整備や周知の徹底も必要です。

再度、所得税法施行令第21条に戻りますと、第2号は制服が支給される場合、第3号は貸与される場合となっています。

A社のケースは返却義務があることから第3号の貸与に該当します。

貸与はA社のように無償貸与であることが一般的で、この場合は通常非課税となりますが、制服代の一部を社員に負担させる有償貸与についてはどうなるでしょうか。

国税庁は制服について「職務の遂行上(性質上)欠くことのできないもの=業務上の必要性に基づくもの=使用者(会社側)が負担すべきもの」と考えているようです。 

したがって有償貸与の場合は、制服代?負担額=利益に対して給与課税されるリスクがあることを考慮に入れなければなりません。

最後に、返却義務を怠った退職者に制服を買い取らせる場合ですが、制服代を実費弁償させること自体は税務上特に給与課税の問題にはならないと考えられます。

このように制服貸与には税務上もさまざまな留意点があります。

弁護士や社会保険労務士からのアドバイスも踏まえて、経営者の皆様方にはくれぐれも慎重なお取扱いをされますようお願いいたします。

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
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SRネット北海道 会長 安藤 壽建  /  本文執筆者 弁護士 加藤 正佳、社会保険労務士 木村 光、税理士 臼井 雅浩



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