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第136回 (平成25年5月号) SR高知会

障がい者雇用!
雇う仕事がないなら、仕事を創るしかないのか…

SRネット高知(会長:結城 茂久)

H協同組合への相談

徐々に事業規模を拡大してきたK社はH協同組合に加入し、これまでも事業活動のサポートを受けてきました。最近は、法定福利費の増大や今後の障がい者雇用に関する法改正のことが気になっているようで、総務担当を組合事務局に差し向けてきました。

K社では自分一人が障がい者(もとは現場作業者であったが、転落事故により普通障がいとなり、総務として雑務を行っている)ですが、いよいよ27年4月からK社も障がい者雇用納付金が対象となります。事務は社長の身内でまかなっているし、現場や営業で障がい者は雇用できません。安全の問題や他の社員への影響を考えると、とても無理のようです。社長は、「仕事がなければつくれ」ということなのか、中小企業への圧力だ!」と反発していて、私に何とか解決策をみつけてこい、というのです。

社長としては、「もしも、障がい者を一切雇わなければ、どのようなことになるのか、金さえ払えばそれで済むのか、今後の営業や事業の継続に影響はないのか」といったことを詳しく知りたいようです。また、ホームページの製作などの技術があれば、在宅勤務でも雇用として可能なのかどうか、「障がい者をあと二人雇用」というのは、かなりハードルが高いと考えているようです。一通りの話を終えた相談者は、「自分自身も会社の役には立っていないのではないか…」と落ち込んでいます。

障がい者雇用に対するK社社長への説明、またK社として今後どのような対応をすべきなのかのアドバイスを求められた組合事務局では、専門的な相談内容について連携している地元のSRアップ21を紹介することにしました。

相談事業所 組合員企業K社の概要

創業
1958年

社員数
正規 135名 非正規 46名

業種
ビルメンテナンス業

経営者像

Kの社長は59才、ここ数年、建物内の清掃業務よりも、高層ビルの窓ガラス清掃の業務が増加し、従業員の平均年齢も随分と若くなってきました。社員の増加は儲けに比例するので良いのですが、産業医・衛生管理・健康診断結果報告など、法律の制約が多くなったことに、いらいらするK社の社長でした。


トラブル発生の背景

今のところトラブルには発展していませんが、K社の総務担当者の姿を見ると「いずれは…」という気がいたします。障がい者に障がい者雇用の担当させることについては問題ないのでしょうか。

中小企業にとって、障がい者雇用は頭の痛い問題かもしれませんが、前向きに取り組むことで何らかの光がみえてくることがあるかもしれません。

同業者、あるいは当組合をはじめとして、さまざまな団体の中での解決方法も模索する必要がありそうです。

ポイント

現在は、常時使用労働者201人以上が対象となっている障がい者雇用ですが、平成27年4月からは、これが101人以上となります。

かなりの企業が対象になることが予想されますが、行政指導の方法や違反した場合の措置は、どのようなことになるのでしょうか。

募集・採用の方法や適応業務など、各企業の好事例が多発することを想定しつつ、K社社長への良きアドバイスをお願いします。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:参田  敦)

まず、本件については、障がい者に障がい者雇用担当をさせていますが、この点については法的な問題はないと考えられます。労働基準法3条は、労働者に対して差別的取扱いをすることを禁じていますが、これは差別的取扱いとはいえません。障がい者が採用担当をするのは、採用される障がい者の心情に配慮できる等、むしろメリットがあると思われます。

障害者雇用促進法43条1項は、事業者に、常時従業員の1.8パーセント(施行令9条)の割合で障がい者雇用義務を課しています(なお、平成25年4月1日からは障がい者雇用率が2.0パーセントに改正され、50人に1人の障がい者雇用義務になります)。

これは、障害者雇用納付金制度((53条)とは別個のものです。したがって、雇用納付金を支払ったとしても障がい者を雇わなくてもよい、というわけではありません。

つぎに、障害者雇用促進法の罰則についてご説明します。

障害者雇用促進法の罰則は85条の2以下に規定があります。その内事業主に関して重要なものは86条1号?5号の罰則です。

?障がい者雇用義務がある事業主が、障がい者の雇用に関する状況を厚生労働大臣に対して報告しなかったり、虚偽の報告をしたとき(86条1号、43条7項、規則7条)

?厚生労働大臣から障がい者の雇入れ計画の作成を命ぜられたのに、計画を作成せず、又は当該計画を提出しなかったとき(86条2号、46条1項、46条4項) ?高齢・障がい・求職者雇用支援機構から、障がい者雇用納付金関係業務に関する文書等の提出を求められたのに、それをしなかったとき又は虚偽記載をした文書の提出をしたとき(86条3号、52条1項)

?責めに帰すべき事由なく障がい者を解雇したのに、公共職業安定所長にその旨の届出をせず、又は虚偽の届出をしたとき(86条4号、81条1項)

?厚生労働大臣等から、障がい者の雇用状況等の報告を求められたり、職員の立ち入り検査があったのに、その報告をせず、若しくは虚偽報告をし、又は職員の質問に対して答弁せず、若しくは虚偽の陳述をし、若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき(86条5号、82条1項)

これらに違反したときには、法人とその代表者等は30万円以下の罰金を科されます(86条、87条1項)。K社が注意すべき罰則は、現段階では上記?です。雇用状況の報告を怠らなければ問題はありません。

以上のように、障害者雇用促進法には、障がい者を雇わないこと自体には罰則はありません。しかし、雇用義務がある以上、障がい者をまったく雇わなくてよい、というわけではありません。

障がい者を一切雇わない場合には、企業名が公表されるというリスクがあります。これは、報告により障がい者雇用率が低いと判断された企業に対し、公共職業安定所長は、障がい者雇入れ計画作成命令を発する(法46条1項)というものです。

雇入れ計画作成命令の対象は、次の通りです。

?障がい者の実雇用率が全国平均実雇用率未満であり、かつ、不足数が5人以上である企業
?法定雇用障がい者数が3?4名の企業であって、障がい者を1人も雇用していないもの
?不足数が10人以上の企業

K社は、障がい者を1人雇用していていますから、現在の状況ならば雇入れ計画作成命令の対象にはなりません。しかし、1人が辞職すれば?に該当しますし、基準が改訂される場合もあります。

また、雇入れ計画の実施状況が悪い企業には、適正な実施をするよう勧告され(46条6項)、改善が特に遅れている企業には、公表を前提とした特別指導が実施されます。これに従わず、雇用率が改善しない場合には、最終的に企業名が公表されるおそれがあります(47条)。

公表される企業は、平成23年度に3社と年に数社ほどです。数は少ないですが、公表されると企業イメージの低下等の不利益は否定できません。現在の状況では、今後の営業や事業の継続に悪影響が生じるおそれがあります。

以上からすると、K社が障がい者を雇わない方向で事業を続けるのはリスクがあります。在宅勤務者でも、常時労働者と同じ就業規則が適用され、雇用保険の被保険者資格があれば、障がい者雇用率に算入できる場合があります。この方法を活用して在宅勤務障がい者を雇用する等、障がい者雇用率の改善を検討すべきでしょう。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:岩山 克)

全ての事業主に義務づけられている障がい者の法定雇用率は、本年平成25年4月1日より2.0%となりました。今回の改正に伴い、障がい者を1人以上雇用しなければならない事業主の範囲が「従業員50人以上」に拡大されたわけです。対象事業所は、毎年6月1日時点の障がい者雇用状況をハローワークへ報告し(義務)、障がい者雇用推進者を選任するように努めなければなりません(努力義務)。また、法定雇用率を満たしていない場合、不足する人数1人に対して納付金を納付する義務がありますが、平成27年4月からは、対象事業所が常用雇用労働者201人以上だったものが常用雇用労働者101人以上に適用が拡大されます。その額は不足する1人あたり、月額5万円、常時雇用労働者101人以上200人以下の場合、月額4万円を納付することになります(平成27年4月から平成32年3月までの特別措置。平成32年4月1日以降は原則月額5万円)。

K社の場合、現在常時雇用する労働者が、正規、非正規を併せて181人のようですから、障がい者の法定雇用率を乗じてみると、最低3人は障がい者を雇用しなければならないことになります。K社担当者御自身も障がい者とのことですので、この方を差し引いても「障がい者あと二人雇用」という状況です。このままの状態でいけば平成27年4月から毎月8万円の納付金を納めなければなりせん(平成32年4月からは毎月10万円)。納付金を収めますというのも一つの方策ではあります。しかし近年、労働行政における障がい者雇用推進の取り組みは一層強化され、2012年がい者雇用情景の集計結果によると、民間企業における雇用障がい者数、実雇用率、法定雇用率達成企業の割合は過去最高になっています。

障がい者雇用の促進には「共生社会」実現の理念が根底にあり、企業の「社会的責任」ということもあります。また、コンプライアンス(法令遵守)という言葉もよく聞きます。法令違反は企業の社会的信用を失墜させ大きなダメージを与えます。

実際、障がい者雇用の義務を履行しない場合には、行政指導を受け、最終的には「企業名の公表」という社会的制裁を受けることもあり得ます。また逆に都道府県によっては、障がい者を雇用していることにより、入札での配慮を受けられたり、融資、広報の対象になるなどのメリットもあります。

K社担当者は、過去の事故により障がい者となり、今現在の御自身の職場での立場にも苦慮されているようです。業務上外を問わず、誰もが事故等によって障がい者になり得る可能性があります。そういった時にも安心して働ける職場環境を整えることも、これからの企業として必要なことではないでしょうか。まずは障がい者の方が出来る仕事を考えるのが最初の一歩となりますが、この際には「障がい者雇用」という発想は排除して、今ある業務を洗い出し、このような業務をしてくれる者があれば仕事が捗る、などというようなものを考えてみてください。ホームページの作成は勿論、各種消耗品の管理補充、インターネットでの情報収集等々、はじめから出来ないと決めつけることなく職務の洗い出しを行ってみてください。また、障がいの種別によっては職場環境を整えることも必要となるでしょう。募集の仕方にも頭を悩ますかもしれません。その際にはハローワークの専門援助部門に積極的に相談しましょう。障がい者雇用のサポート機関でもあるハローワークは、募集や助成金などの支援制度の紹介など様々な局面でサポートしてくれます。

ただし、このような手続や障がい者雇用調整金の申請には、それなりの知識や時間がかかります。障がい者でもあるK社担当者が適任であれば、その担当に据え、さらには就業規則の改正などの検討、情報収集などの役割を担う役割を与えてはいかがでしょうか。新たに雇用される障がい者とのパイプ役にも適任かもしれません。こうして障がい者雇用を推進させていくという姿勢が、他の従業員の士気を高めると共に、安心感も生み出していくと思われます。また、障がい者の在宅雇用は可能かとの問いもありましたが、これは可能ですし、事業所勤務労働者との同一性が確認できれば雇用保険の被保険者にもなり、障がい者雇用率制度の対象労働者にもなります。

税理士からのアドバイス(執筆:藤原 高博)

企業の社会的責任(CSR)的に、企業は、企業で働く役員、従業員のため、そして出資者のために存在していると考えられがちですが、企業と様々なかたちで利がい関係に立つもの、例えば、消費者・取引先・地域社会・国家等との関係を疎かにしては企業の存続はあり得ず、これらの利害関係者との調和なくして企業の存続・発展は考えられません。

障がい者雇用を促進することは、CSRに適うものであり、企業イメージ向上、ひいては企業業績の向上という前向きの、いわば、戦略的思考で取り組むべきものではないでしょうか。

さて、障がい者を雇用した場合の税制上の支援措置としては以下のものがあります。

(1) 障がい者を多数雇用する場合の機械等の割増償却制度
障がい者の雇用割合が50%以上である法人又は個人は、機械及び工場用の建物等の普通償却限度額の100分の24相当額の割増償却ができます。(租税特別措置法13条)

(2) 事業所税の軽減措置
事業所税の従業者割については、課税標準としての従業者給与総額から障がい者の給与分を控除し、また、障がい者を10人以上雇用し、かつ、その雇用割合が50%以上である事業者であって、重度障がい者多数雇用事業所施設設置等助成金に係る施設又は設備に係るものについては、事業所税の資産割に係る課税標準の2分1を控除できます。(地方税法第701条の41第2項)

(3) 不動産取得税の軽減措置
障がい者を20人以上雇用し、かつ、その雇用割合が50%以上の事業所の事業主が、重度障がい者多数雇用事業所施設設置等助成金を受けて事業用施設を取得した場合において、その者が当該施設の取得の日から引き続き3年以上当該施設を当該事業所の事業の用に供したときは、当該施設の取得に対して課する不動産取得税については当該税額から価格の10分の1に相当する額に税率を乗じて得た額を減額することができます。(地方税法附則第11条の4)

(4) 固定資産税の軽減措置
障がい者を20人以上雇用し、かつ、その雇用割合が50%以上の事業所の事業主が、重度障がい者多数雇用事業所施設設置等助成金を受けて取得した事業用の家屋に対して課する固定資産税の課税標準は、取得後5年間に限り、当該家屋の課税標準となるべき価格の6分の1に障がい者の雇用割合を乗じたものを減額した額とすることができます。(地方税法附則第15条第4項)

つぎに、障がい者雇用に関連した助成金等の取扱いについてご説明します。

(1) 障害者雇用納付金制度(に基づく助成金及び障がい者雇用継続助成金
助成金のうち、固定資産の取得又は改良に充てた部分の金額に相当する金額を、圧縮記帳による損金算入(法人税)又は総収入金額不算入(所得税)とすることができます。

(2) 法人の場合の会計処理
3通りの方法がありますが、以下の方法が簡便です。
? 助成金収入時:     (現金預金)×××(雑収入) ×××
? 固定資産取得・改良時:   (固定資産)×××(現金預金)×××
? 損金算入時:   (固定資産圧縮損)×××(固定資産)×××

たとえば、経理・財務業務を障がい者の対象業務とした場合のフォロー体制を考えてみると、昨今、経理・財務業務等はパソコン、インターネット等のITで処理されることが多く、障がい者の業務として適していると思われます。

障がい者は健常者と比べ様々なハンディキャップをもっており、バリアフリー、専用のトイレ等、特別な支出を余儀なくされることが多いと思われますが、これら施設の整備充実をはかることは、人、特に弱者に優しい経営に通じるものであり、全般的な労働環境の改善へと職場環境が整備充実されることにより、経営効率の向上が期待されるのではないでしょうか。

その他、関連する税務上の留意点としては、納税者である社員自身が障がい者(または重度の障がい者)となった時には、他の所得控除に加えて、下表の障がい者控除を受けることができます。

 

適用される場合 障がい者の意義 控除額(万円)
所得税 住民税
障がい者控除 納税者自身が障がい者であるとき(障がい者) 身体障がい者手帳に身体障がい者として記載されている人等 27 26
納税者自身が重度の障がい者であるとき(特別障がい者) 身体障がい者手帳に記載された障がいの程度が1級又は2級の人等 40 30

 

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
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SRネット高知 会長 結城 茂久  /  本文執筆者 弁護士 参田  敦、社会保険労務士 岩山 克、税理士 藤原 高博



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