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第113回 (平成23年6月号)

「親の介護のため2ヶ月休暇をいただきたい…」
介護休業じゃないよね…?!

SRネット石川(会長:菊池 寛治)

相談内容

Y社の社員が長期休暇を取得することは、人員が少ないせいもあって、なかなか困難です。また、売上によって月々の給与が大きく変動しますので、必然的に休まない社員が多くなっています。その中にあって、32歳のK社員はマイペースで、売り上げゼロという月も少なくありません。S社長はこのK社員が疎ましくて仕方ありませんでした。ある日のこと、K社員がS社長に相談をお願いしたいといってきました。S社長は「いよいよ辞めてくれるのか」とニコニコしていましたが、K社員の話は、田舎の父親の容態が悪いため、2ヶ月ほど休暇をもらいたいということでした。「休暇?…だと」予想に反した内容にS社長は後の言葉に詰まってしまいました。「はい、介護休業ということでお願いしたいのですが…」K社員は頭を下げました。

「介護休業か…」S社長は、自社の介護休業規程を始めて読み始めました。Y社は、昨年社員が10名に達したことから、就業規則を作成し、届け出ていましたが、S社長はほとんどその内容を理解していませんでした。「確か、Kの実家には、母親も姉もいるはずだし、あいつが行かなくても問題ないのではないだろうか…」S社長は、K社員の休暇を認める必要がないと判断し、次の日にK社員を呼び出すと「君が言っているのは介護休業には該当しない、実家に帰るのなら、当社を退職した方がよいのではないか?それならば心ゆくまで親父さんの介護ができるだろう」と話を切り出しました。すると「そうですか、解雇ということですね、余命わずかな父親の面倒をみることも許さす、会社を追い出そうとするのですね…」他の社員にも聞こえるような大声でK社員がS社長に噛み付いてきました。「おいおい、人聞きの悪いことを言うな!介護休業には当たらないのではないか、といっているのだ!」S社長は慌てました。

相談事業所 組合員企業Y社の概要

創業
平成11年

社員数
10名 パートタイマー1名 

業種
通信機器等販売業

経営者像

Y社のS社長は52歳、大手企業の販売代理店を経営しています。ノルマは課しませんが、賃金に占めるインセンティブの割合を大きくして、社員のやる気を引き出しています。“成果を上げた”社員には高処遇で応えるY社長でした。


トラブル発生の背景

家族介護の問題は、今後ますます発生することが予想されます。介護休業に該当する場合、該当しない場合の企業の対応が重要となってきます。
企業が“休暇”を認めない場合は、即契約不履行で雇用契約が解消できるものでしょうか。一般的な欠勤許容期間の考え方をどのようにすべきだったのでしょうか。

経営者の反応

感情的になったK社員は、泣きながら会社を出て行きました。周りの社員たちが、なんとなく自分に冷たい視線をぶつけているような感じを受けたS社長は、近くにいた社員たちを集め、ことの経緯を説明しました。

「社長、事情はわかりましたが、われわれも法律が認める介護休業の要件を知っているわけではありません、Kもそうだと思います、親の面倒をみたいというのは当然の気持ちですよ」古株の社員が発言しました。

「確かにそうだな、しかし、何でも会社が認めるというわけにもいかないしなぁ…」S社長は、とりあえず他の社員たちの誤解が解けたことに安心しつつも、K社員の動向が気になっていました。労働基準監督署や労働組合に駆け込まれては厄介だし、かといって2ヶ月の休暇を認めるのも癪に障るし、どうしたものかと悩んでしまいました。

そのとき、サイト編集業務を担当している社員が「社長!よい相談先がありましたよ」と声がかかると、S社長はモニターの前に走りました。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:二木 克明)

本件では、問題社員が介護休業の申請をして来た時に社長はどう対応すべきか、という問題と、介護休業が認められないのに欠勤した場合、どうなるのか、解雇できるのか、この2点が問題となってきます。

以下、弁護士の立場から、順次説明します。
介護休業は、10数年前にできた制度であり、育児休業に比べれば、まだ認知度の低い制度です。しかしこれからは、高齢化社会を迎え、今後活用されると思われます。同時に、本件のようなトラブルの発生も十分予想されますので、この機会に知っておきたい制度です。 介護休業の制度を簡単にいうと、要介護状態にある家族を介護するために労働者が休業の申し出をすれば、約3か月(93日)以内の範囲で休むことができる、という制度です。この休業が認められるためには、家族が要介護状態にあることが必要です。ここで要介護状態とは、負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態の場合です。また、この休業を申し出るには、自身の過去の雇用期間が1年以上であり、かつ、今後少なくとも1年3月程度以上は雇用が継続する見込みの労働者でなければなりません。

このような要件を満たす場合、事業主は、介護休業を認めなければなりません。そして、介護休業を取得したことを煙たく思って、それを理由に不利益な扱いをすることも禁止されています。

さて、この介護休業取得の手続ですが、書面等で申し出をすることになっており、また、事業主は要介護状態にあることについて、証明書類の提出を求めることができます。

労働者が介護休業の申請をして来た場合の対応
本件のS社長の対応ですが、かなり不適切だと言えます。
まず、K社員から介護休業の申し出があった訳ですが、この申し出は、原則として書面でなされなければなりません。また、本当に要介護状態にあるのかどうか、を確かめるための証明書類の提出を求めることができます。そこでK社長としては、証明書類を添付して、介護休業の申し出書を提出するように指示するべきでした。K社員は、「田舎の父親の容態が悪い」と言うだけですので、2週間以上常時介護を必要とする状態なのか不明です。ところがS社長は、そのような書面の提出を求めず、しかも、介護休業の要件や手続を調べないまま、独断で介護休業に該当しない、とK社員に伝えているのですから、K社員が怒るのも無理ない、と言えましょう。

しかもS社長は、解雇をほのめかしております。解雇は、相手が拒否した場合、大きな問題に発展しますので、余りにも軽率でした。

介護休業が認められない場合の対応について
次に、K社員が介護休業の要件を満たしていないのに、親の介護のために2か月間の休みを取った場合、会社としてはどう対応すべきか、が問題となります。

まず、K社員の欠勤が無断欠勤なのか、許可を得ての欠勤なのかにより、結論が大きく変わってきますので、この点を検討しましょう。

これについては、三菱重工業長崎造船所事件(長崎地裁昭和47年1月31日判決)が参考となります。解雇事由の「無断欠勤」とは無届け欠勤のみを意味し、正当な理由があるかどうかにかかわらない(従って届出を出してあればよい)と判断されました。ですから本件のように、社長がダメと言い張っても、労働者が口頭で2か月休む、と伝えてあれば、無断欠勤にはならないと考えられます。

この場合、かかる欠勤はどの程度まで認めなければならないのか、ということが問題となります。言い換えると、どのような事態になれば解雇や懲戒処分が認められるのか、ということが最大の関心事です。

これは、欠勤の長さや欠勤の事情等で大きく結論が異なってきますので、ケースバイケースで判断するほかありません。

過去の例を見ると、プレス工場従業員が6か月間に24回の遅刻と14回の欠勤(うち13回は無断欠勤)を行い、その間の上司の繰り返しの注意や警告にもかかわらず、かかる態度を継続したという事例で、就業規則の「正当な理由なく遅刻・早退または欠勤が重なったとき」という条項にあたるとして、懲戒解雇が有効となった事例があります(東京プレス工業事件―横浜地裁昭和57年2月25日判決)。

その一方で、2か月間の無断欠勤を理由に懲戒解雇をした事案で、その発端が代表者から暴力を受けて怪我をしたことなどの事情がある場合、懲戒解雇は無効である、とした判決もあります(福岡高裁昭和50年5月12日判決)。

これと本件を比較した場合、K社員が、介護休業として認められると思って2か月間の休暇を取ったのであれば、これだけを理由に解雇するのはまず無理と思われます。

少なくとも会社としては、介護休業が認められないことは十分説明する必要があるでしょう。また、そのような会社側の指導忠告を無視して、あえて休暇を取った場合は、就業規則の規定に照らし、軽い処分を科して十分指導すると共に、今後問題があればもっと重い処分になる旨、予告しておくべきでしょう。

それでもまた問題行動があれば、処分を重くして行き、それでもダメなら解雇、という手続を踏むのが適当です。

なお、このような労働事件が裁判になった場合ですが、裁判官によって結論が異なることもあります。最近の傾向では、相当労働者寄りの判決が出る可能性が高くなっていますので、裁判にならないように事を納めることが先決でしょう。労働者と十分に協議し、納得してもらうことを心がけてください。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:四辻 勝秀)

考え方として、まずK社員の勤務成績と介護休業については全く区別して考えるべきです。介護休業については「要介護状態として負傷、疾病又は身体上若しくは精神の障害により、厚生労働省令(2週間経過日)の期間にわたり常時介護を必要とする状態にある」と育児・介護休業法第2条第3項に基づいて育児・介護休業等規程が定められていると思われ、(1)配偶者(2)父母(3)子(4)配偶者の父母(5)祖父母、兄弟姉妹または孫であっては当該社員と同居し、かつ、扶養とされるため、今回の請求の父親であれば同居如何を問わず、また、他に介護をすることができる者の存在を問わず、請求することができることとなります。したがって、勤務成績が悪いことを理由に介護休業を認めようとしなかったことは、S社長の明らかな落ち度であると言えます。

S社長は、K社員に対して、自身が規程を十分理解していなかったことを認め、改めて「介護休業申出書」や父親の病状を確認できる各種証明書の提出を求めることとなると思いますが、各種証明書については、労働者が提出できるもので足りるとされ、たとえ証明書の提出を拒まれたとしても、証明書の提出がないことを理由に申し出を拒むことはできないとされています。(育児・介護休業法第12条第4項) K社員から介護休業の申出が出された際には、会社としては努力義務ではありますが「介護休業取扱通知書」を出さなければなりません。(育児・介護休業法第21条第2項)この通知書は、労働者が介護休業をしている間の待遇に関する事項、休業後における賃金、配置その他の労働条件に関する事項等に関する取扱いを明示するものです。

事業主は当該介護休業申出に対して、(1)介護休業申出を受けた旨(2)介護休業開始予定日(事業主が開始日の指定をする場合には、その指定日)及び終了予定日(3)介護休業申出を拒む場合には、その旨及び理由のみ介護休業取扱通知書に盛り込むことでも良いとされます。

ところで、会社の就業規則には休職の規定が存在すると思われますが、K社員が介護休業を申し出た以上、一般の休職とすることは育児・介護休業法第12条違反であり許されません。介護休業を拒否できるとすれば、労使協定により除外可能とされる、入社1年未満の社員、申出の日から93日以内に雇用関係が終了することが明らかな社員、1週間の所定労働日数が2日以下の社員ということになります。

介護休業等を認めることは、育児・介護休業法第1条の目的である、「雇用の継続と職業生活と家庭生活の両立に寄与する」ということですので、他の社員へ与える影響も考え、K社長が介護休業等を嫌々認めているという態度は避けるべきでしょう。ただし、会社の規模から、休業期間中他の社員に少なからず迷惑を掛けることをK社員に伝え、できるだけ短い期間で復職するように促すことは当然であるといえます。 本件の介護休業の期間については2ヶ月間とありますが、会社としては介護状態にある家族が一時的に回復した場合等を考え、再び介護休業を取ることも可能である旨を伝え、当初2?3週間等の申請を行い、継続して2ヶ月ということでなく、合計で93日までの間で、数回に分けて申請ができる旨も説明すべきです。

Y社のように歩合給の占める割合が大きい会社にあって、売り上げがゼロという月が多い営業マンを事業主が疎ましいと思うことは当然です。しかし、ここはぐっと我慢して、K社員の職場復帰を機会に社内の教育制度を充実させ、なぜ売り上げが上がらないのか、営業方法に他の社員と何か決定的な違いがあるか等、徹底的に検証すべきであり、必要により個別指導を行い、教育後その効果を確認することも重要です。結果的に営業努力を依然として怠たる等、再三の教育訓練等にもかかわらず成績不振の場合については、解雇の理由にもなりうると思われます。会社の就業規則には一般的に「解雇」の規定がありますが、当然、会社の規則に反した場合の懲戒とは区別されます。その中には一般的に、「勤務成績が不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等、就業に適さないと認めたとき」とありますので、会社として十分な対策が採られていれば、解雇権の濫用にはならないと判断されるのではないでしょうか。

今回の質問とは直接関係がありませんが、今後、超高齢化社会が到来する中で、介護は女性の仕事と誤った考えの経営者がまだまだ多くいることも事実です。そして、本件は「ダメ社員」でしたが、会社で一番の売り上げの社員から請求されたことを考え、「きみが介護休業を取ったら会社がどうなる…」では会社の将来が気がかりです。会社と社員「こんな時にどう切り抜けるのか」を考える良い機会なのかもしれません。

税理士からのアドバイス(執筆:村上 博丈)

K社員が介護休業をした場合に、一定の要件を満たせば、介護休業給付金の受給を受けることができます。雇用保険法において失業等給付は非課税とされているため、介護休業給付金には所得税は課税されません(雇用保険法第10条、第12条)。

次に、K社員にいろいろな支援を行った場合の税務処理についてご説明します。
見舞金を支給する場合
(1)所得税上の取扱い
雇用契約に基づいて支給されるものなので、原則としては給与として課税されます。しかし、その見舞金が社会通念上相当と認められる金額であれば、課税しなくても差し支えありません(所得税法施行令第30条第3項、所得税基本通達28-5)。しかし、従業員によって金額に差があると給与として課税される可能性が出てきますので、福利厚生規程等で、従業員の親の入院の場合の見舞金を定めておくことが望ましいです。

(2)法人税上の取扱い
その見舞金が社会通念上相当と認められるものについては、福利厚生費として損金算入されます。社会通念上相当と認められない金額の場合、従業員であれば、給与として損金算入されますが、取締役等の役員への支給であれば、定期同額給与に該当しないので、損金不算入になります(法人税法第34条)。

医療費の補助支給をする場合
(1)所得税上の取扱い
医療費については、本来は本人が支払うべきものであるので、原則として給与として課税されます。しかし、福利厚生の一環として、医療費の一部を補助する場合には、その補助が役員や特定の地位にある人だけを対象とするものではなく、その金額を支払った医療費の額等に応じて定めている場合には、従業員に対する見舞金と考えられますので、課税しなくても差し支えありません。この場合には、福利厚生規程等で、その対象者・基準・最高額等を明記し、全従業員に周知しておくことが望ましいです(所得税法施行令第30条第3項、所得税基本通達28-5)。

(2)法人税上の取扱い
福利厚生規程等で、その対象者や基準を明記する等の条件を満たせば、福利厚生費として損金算入されます。しかし、その基準が曖昧な場合は、従業員であれば、給与として損金算入されますが、取締役等の役員への支給であれば、定期同額給与に該当しないので、損金不算入になります(法人税法第34条)。

介護のための帰省旅費を支給した場合
(1)所得税上の取扱い
給与所得者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するための旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者がこれらに伴う転居のための旅行をした場合などに、その旅行に必要な支出に充てるために支給されるもののうち、実費相当額は非課税になります(所得税法第9条第1項第4号)。
しかし、K社員の親の介護のための帰省は職務の遂行等には該当しないので、帰省のために支給した旅費は給与所得に該当します。一方、退職に伴い転居するということであれば、実費相当額は非課税になります。

(2)法人税上の取扱い
このケースの帰省旅費に関しては、職務の遂行に必要とは考えられないため、従業員であれば、給与として損金算入されますが、取締役等の役員への支給であれば、定期同額給与に該当しないので、損金不算入になります(法人税法第34条)。

K社員がY社を退職し、退職金を支給した場合
(1)所得税上の取扱い
K社員がY社に対して「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合には、その退職金額から勤続年数に応じた退職所得控除額を控除した金額が課税の対象になります。
仮に、K社員を解雇した場合(そもそも労働基準法上の解雇理由になるかという問題はありますが)に支払う解雇予告手当については、退職所得に該当します(所得税基本通達30-5)。
また、労使間の紛争になった場合に支払われる紛争解決金は、K社員が退職することに変わりがなければ、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与なので、退職所得に該当します(所得税基本通達30-1)。

(2)法人税上の取扱い
K社員の退職に伴い支給する退職給与規程に沿って計算される退職金額、解雇予告手当、紛争解決金は、原則としてK社員の退職日の属する事業年度の損金の額に算入されます。

税務上のトラブルを避けるためにも、従業員によって、または時期によって、同じ事象にもかかわらず、取扱いが異なることのないように規程を整備し、その規程に沿った運用をしていくことが必要です。従業員の会社に対する信頼感やモチベーションにも関わってくる部分でもあるので、経営トップ自身が就業規則や福利厚生規程の制定に積極的に関わり、理解しておかなければいけません。

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SRネット石川 会長 菊池 寛治  /  本文執筆者 弁護士 二木 克明、社会保険労務士 四辻 勝秀、税理士 村上 博丈



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