社会保険労務士・社労士をお探しなら、労務管理のご相談ならSRアップ21まで

第105回 (平成22年10月号)

社内サークル活動中にセクハラ事件発生!
「会社は関係ありませんよ…」

SRネット沖縄(会長:上原 豊充)

相談内容

時代の流れと共に、職場の人間関係が希薄になっていることが気になっていたE社長は、10年前から社内サークル活動応募制度を導入し、必要経費等の援助を行ってきました。現在では、フットサル、バトミントン、テニスの3つのサークルが活動しています。各サークル人員が6名以下となると、会社からの援助がなくなるため、退職者が発生すると、メンバーたちが必死に代替要員を探すような場面もありました。

そのような中で、男性5名女性2名が加入しているバトミントンサークルの活動中に、女性社員のUさんが転倒し、左足を痛めてしまう事故が発生しました。軽い捻挫のようで、そのときは何もなかったのですが、2日後、U社員は総務部長に相談を持ちかけていました。その内容は、サークル活動中にけがをした際、男性社員に体のあちこちを触られたこと、スポーツとはいえ、普段から必要以上に体に触ってくるので、とても介抱してくれているとは思えなかったこと、サークル終了後は、いつも飲み会となり、なかなか断れないこと、無理やり誘われて加入したが、もう嫌になったので会社を辞めたい、というものでした。驚いた総務部長は、とりあえず退社するのは待ってくれ、とU社員に頼み込むと、社長室へ向かいました。

ことの経緯を聞いたE社長は、怒り心頭に達しつつも、問題のサークル部員には、O社の核となる社員がいるため下手なことはできない、と考えていました。

「全社員に、本来のサークル活動の目的を徹底的に周知するとともに、U社員が辞めると言っているのなら、それは仕方ない、今後このようなことが起きないようにしよう…」と言葉を濁しながら総務部長に指示しました。

相談事業所 O社の概要

創業
平成3年

社員数
53名 契約社員 10名 

業種
ソフトウエア開発業

経営者像

創業20周年を迎えたO社のE社長は64歳、社員相互の親睦を深めるため、社内サークル活動に積極的な援助を行っています。「組織力は意思統一、より良い人間関係がパワーを生み出す」を社是として、日頃からコミュニケーションの活発化を提唱しています。


トラブル発生の背景

社内サークル活動は基本的には業務外ですが、仕事との関連がまったくゼロではありません。現実的な活動内容や責任者への教育について、会社はどこまで関与すべきだったのでしょうか。
E社長は、“臭いものには蓋をする”という手段をとってしまいましたが、果たして、このような賭けをすべきだったのでしょうか。

経営者の反応

案の定、U社員からの猛攻撃が始まりました。総務部長の話からすれば、サークルの男子社員が責められて当然なのに、被害者の自分が辞めることになるとは思ってもいなかったからでした。女性社員たちの間では、バトミントンサークルがセクハラ集団のように噂され、それに呼応したようにテニスサークルでも同様の噂が飛び交うようになりました。

「弁護士に相談しますからね!」という捨て台詞で、U社員は退職しましたが、O社の混乱はなかなか収まりませんでした。

E社長は、各サークルの責任者を集めて諸注意を行いましたが、「こちらの方が被害者ですよ、セクハラなんて誰もしていませんよ!」と文句を言われる始末です。E社長としてみれば、頼りない総務部長に当り散らすしかありませんが、「社長、私を怒っても事態は変わりません、U社員への対応、サークルの存続是非、運営方法や企業メリット等について専門家に相談いたしませんか」という総務部長の意見を聞いていると、なんとか冷静を保てるようになりました。

  • 弁護士からのアドバイス
  • 社労士からのアドバイス
  • 税理士からのアドバイス

弁護士からのアドバイス(執筆:中村 昌樹)

職場におけるセクハラは、その被害者の性的自由や人格権を侵害するものと考えられることから、セクハラを行った従業員が、その被害者に対して不法行為(民法709条・710条)に基づく損害賠償責任を負うことになります。

また、セクハラを行った従業員本人だけでなく、その従業員が会社の「事業の執行について」セクハラを行ったといえる場合については、事業主である会社自体が使用者として損害賠償責任(使用者責任)を負う(民法715条)場合があります。

さらに、使用者には良好な職場環境を整備し、配慮する義務や、事件発生後の適切な対応、職場環境の改善に努める義務等があるとして、その義務違反につき不法行為責任、あるいは労働契約に伴う付随義務違反による債務不履行責任に基づき、使用者独自の損害賠償責任が会社に生じる可能性もあります。平成18年改正の男女雇用機会均等法は、事業主に対し、セクハラ防止に関する雇用管理上の必要な措置を講ずることを法的義務化し、厚生労働大臣はその適切かつ有効な実施をはかるための指針を定めています。このような立法による配慮措置の義務化により、会社の措置が右指針の基準を満たしていない場合には会社に責任が発生するものだと考えたほうがよいでしょう。

次に、就業時間外・社外で行われたセクハラと使用者の責任についてはどうでしょうか。前述「事業の執行について」という要件が認められるかどうか、あるいは、使用者の配慮改善義務等が発生するかどうかは、その従業員の行為と事業の執行行為との密接関連性の有無によって判断されるものとされています。セクハラが、就業時間外や社外で行われたものであった場合には、事業執行とは無関係のもので、使用者が責任を問われることはないように思われるかもしれません。しかしながら、実際の裁判例では、就業時間外・社外で行われたセクハラであっても、セクハラ行為と業務との関連性や、行為者の職務上の優越的地位の利用の面などから判断して、事業の執行行為との密接関連性が認められた例が多数あります。

例えば、懇親会の3次会後のタクシー内での上司によるセクハラが問題となった東京地裁平成15年6月6日判決では、1次会が会社主催であったこと、2次会に全員が出席したこと、3次会参加者が全員社員であったこと、本件セクハラ行為が行われた状況は被告の上司としての地位を利用してしかできないことなどから、「本件セクハラ行為は、被告会社の業務に近接して、その延長において、被告(上司)の被告会社における上司としての地位を利用して行われたものであり、被告会社の職務と密接な関連性があり、事業の執行につき行われたというべきである」として、会社の責任が肯定されています。

また、互助会主催の忘年会でのセクハラが問題となった広島地判平成19年3月13日判決では、宴席が互助会の主催であるとしても、互助会が営業所職員全員で組織され、顧問が営業所長であること、営業日の勤務時間内に営業に対する慰労として行われたこと等からすれば、被告会社の業務の一部か、少なくとも密接に関連する行為として行われたとして、セクハラ行為について使用者責任が認められています。

本件の場合も、社内サークル活動は、基本的には業務外とはいえ、その主催者、目的、メンバーなどから会社の業務に密接に関連するものと判断されてしまうと、会社は使用者としての責任を負う可能性があるといわざるをえません。特に、職場の人間関係円滑化が社内サークル活動の目的であり、会社が必要経費等の援助を行ってきたことを重視すれば、会社が使用者としての責任を負う危険が高いと考えます。

セクハラの発生が疑われた場合、会社が使用者としての責任を負うか否かの結論については結局のところ、裁判所の事後的判断に委ねるほかありません。そのため、会社として重要なのは、その結論よりもむしろ、セクハラ発生後の対応こそが重要となります。発生後の対応を誤れば、そのこと自体でも義務違反を問われかねない危険すらあるからです。

職場におけるセクハラは、労働者の個人としての尊厳を不当に傷つけるとともに、労働者の就業環境を悪化させ、能力の発揮を阻害するものです。また、企業にとっても職場秩序や業務の遂行を阻害し、社会的評価に影響を与える問題です。 だからこそ、「臭いものには蓋をする」といった対応ではなく、適切な対応が必要となってきます。適切な対応というためには、平成18年改正の男女雇用機会均等法に基づき定められた「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」に沿った対応が必要となるでしょう。

事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認し、社労士が説明する対応を行ってください。

このように、事後的な対応をしっかりすることこそ、セクハラ被害者の保護はもちろんのこと、会社の法令遵守体制を他の社員や外部に示すこととなり、ひいては、社員の士気向上や会社の業績向上につながるはずだと思います。

社会保険労務士からのアドバイス(執筆:上原 豊充)

O社のE社長は日頃から社員相互のコミュニケーションの活発化が組織力のアップに繋がるとして、社内サークル活動に積極的な援助を行ってきたようです。それなのに、まさかこのような事態になるとは夢にも思っていなかったことでしょう。たとえ業務外のこととはいえ、トラブルとなってしまった以上、会社の責任が問われることも覚悟しなければなりません。

ここで社内サークル活動の企業メリットとリスクについて考えてみましょう。

O社のようにスポーツ系の社内サークル活動は、同じ目的意識を持った人たちが目標達成のために汗を流すことで一体感が生まれ、その結果、職場に戻っても一体感が持続され、仕事上の問題に対しても互いに協力して取り組むこと等のメリットがあります。

一方、社内サークル活動のほとんどが業務外に社外で行われていることから、会社として管理(関与)することが難しく、サークル活動中のケガや事故、社員間のトラブル等は当然想定されるリスクとなります。会社は想定されるリスクに対し、事前に対策を講じたうえで活動を許可しなければなりませんが、今回のセクハラは、まさにリスク管理を怠った結果発生したトラブルといえます。

U社員からセクハラの相談を受けた総務部長はすぐにE社長へ報告しましたが、E社長は具体的な指示をしませんでした。本来、職場でこのような行為についての相談の申出があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、事実確認ができた場合は、行為者及び被害者に対する措置をそれぞれ適正に行う必要があります。また、事実関係が確認できなかった場合も含め、再発防止に向けた措置を講じることとされています。E社長に対して事実確認や再発防止策を速やかに実施することとセクハラについて、法律上義務付けられている内容の説明と、就業規則への規定や社内報等のパンフレットにより社員への周知を図るようアドバイスしました。

職場におけるセクシュアルハラスメントを防止するために事業主が雇用管理上必要な措置を講じなければいけない9項目
?セクシュアルハラスメントの内容及びセクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
?行為者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
?相談窓口をあらかじめ定めること。
?相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、セクシュアルハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること。
?相談の申出があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
?事実確認ができた場合は、行為者及び被害者に対する措置をそれぞれ適正に行うこと。
?再発防止に向けた措置を講ずること。事実関係が確認できなかった場合も同様の措置を講じること。
?相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知すること。
?相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として、不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

業務外の社内サークル活動は、活動中のケガや事故、今回のセクハラも含め様々なトラブルが起きる可能性が大です。よって、会社としての関与の程度、許可基準、運用基準を明確に定め社員へ周知し・遵守を徹底させること、その上で運営していくことが、会社のリスク回避になることを説明しました。

・許可基準の例
?全社員を対象とした内容
?社員の健康増進に寄与する内容
?社員の自己啓発に寄与する内容
?社員の親睦に寄与する内容
?会則等の整備
?各種保険(レクレーション)の加入
?業務時間外に行われること
?責任者を選任すること

・運用基準の例
?会計担当の選任
?定期的な活動報告
?利用施設等の確保
?安全対策

社内サークル活動を福利厚生の一環として行う場合、会社から一定額の補助金が支給されることが一般的ですが、果たして、公平・公正な観点から許可基準及び運用基準となっているのかどうか、これらを見直すことから始めてみましょう。

税理士からのアドバイス(執筆:友利 博明)

会社が社内のスポーツや文化等のサークル活動に対し負担する活動費は、原則として福利厚生費に該当します。しかし、福利厚生費は支出の対象となる役員や社員、支出の目的及び支出の金額によっては給与や交際費等との区分がきわめて曖昧であるため、税務上その支出実態が問題となります。すなわち給与に該当すればその経済的利益の帰属する者に源泉所得税が発生し、また交際費等に該当すれば法人税の問題が生じることになります。

以下において、本件のような会社負担の援助金が福利厚生費に該当するための税務上の要件について説明します。また、援助金の支出形態と会社の会計処理について検討し、今後会社としてどのような点に留意すれば税務上の問題を解消できるのか説明することにします。

会社は、その経営を円滑化する目的から役員や社員のため、規模の大小を問わず福利厚生事業に取組んでいます。こうした活動に対する税務上の取扱いについて、法人税基本通達14‐1‐4では、福利厚生等を目的として組織された従業員団体の損益の帰属について、その事業経費の相当部分を当該法人が負担しており、「かつ、次に掲げる事実のいずれか一の事実があるときは、原則として、当該事業に係る収益、費用等については、その全額を当該法人の収益、費用等に係るものとして計算する。」としています。そして、その事実要件としては ?法人の役員又は使用人で一定の資格を有する者が、その資格において当然に当該団体の役員に選出されることになっていること ?当該団体の事業計画又は事業の運営に関する重要案件の決定について、当該法人の許諾を要する等当該法人がその業務の運営に参画していること ?当該団体の事業に必要な施設の全部又は大部分を当該法人が提供していることを挙げ、会社の費用としての処理を認めています。

税務上の取扱いを判断する上で、本件の援助金が福利厚生費としての要件を満たし、会社の経費として認められるかどうか以下の点から検討します。

第一に、本件の社内サークル活動は特定の社員だけを対象とした活動であるかどうかです。説明によれば応募制度を導入しており、また少なくともメンバーが7人以上の構成員による活動を活動費援助の前提とするなど全社員が参加可能な状況にあることが窺われ、特定の社員を対象にした社内制度ではないものと考えられます。

第二に、サークル活動の運営について、会社側の許諾等を通じた参画があるかどうかです。この点についてサークル活動の運営に関する規則等の明示はありませんが、今回のセクハラ事件後に「全社員に、本来のサークル活動の目的を徹底的に周知する」などを総務部長に指示し、また社長自ら各サークルの責任者を集めて諸注意を行なうなど会社として一定の参画が認められます。

第三に、会社の支出は「必要経費等の援助」を内容とするものですが、その援助がサークル活動の本来の目的に通常必要な内容と金額であるのかどうか、が問題となります。

各サークルへの援助金額やその使途に関する内容は明確ではありませんが、会社における本制度の主たる目的を逸脱するような金額や支出内容ではないものと考えられます。

以上の点から、本件のサークル活動は社員全体に参加の機会が与えられ、会社の管理監督下にあると判断されます。その結果、援助金は支出の総額が福利厚生費として経費処理を認められることになるものと考えられます。

今後の課題としては、福利厚生事業に対して会社が交付する援助金は、税務上の要件を踏まえて対策を講じておくことで、課税上のトラブルを防止することができます。

まず、サークル運営に関する社内規程の整備をする必要があります。規程の内容は、活動の主旨、会員の募集及び運営要領、年間事業計画及び予算等について定め、全社員に参加の機会が平等に与えられていることを明示しておくとよいでしょう。また、同規程による予算の作成によって、会社が援助金を支出する時期、援助の支出基準及び金額を明確にし、これによって会社の経理処理を標準化する必要があります。なおサークル活動に伴う支出については対象者、事業内容及び費用明細を記録した福利厚生費支出報告書の提出を求めることが必要です。こうした報告書によって、給与や交際費等から明確に区別された福利厚生費としての本来の支出であることを明確にすることができます。

最後に、活動費を年度の予算として期初に一括して支給した場合は、一度福利厚生費として計上し、期末に支出されない残額があった場合には戻入れ処理をする必要があります。また、消費税についてもサークルへの支出時に課税仕入れをするのではなく、実際に課税仕入れがあった時に処理することになります。(消費基通 1‐2‐4)

社会保険労務士の実務家集団・一般社団法人SRアップ21(理事長 岩城 猪一郎)が行う事業のひとつにSRネットサポートシステムがあります。SRネットは、それぞれの専門家の独立性を尊重しながら、社会保険労務士、弁護士、税理士が協力体制のもと、培った業務ノウハウと経験を駆使して依頼者を強力にサポートする総合コンサルタントグループです。
SRネットは、全国展開に向けて活動中です。


SRネット沖縄 会長 上原 豊充  /  本文執筆者 弁護士 中村 昌樹、社会保険労務士 上原 豊充、税理士 友利 博明



PAGETOP